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【クローン病ってどんな病気?】

クローン病(Crohn's Disease)はアメリカ人医師B.Bクローン氏の名前を とって命名された原因不明の難治疾患です。ですからクローン羊とは何の関係もありません。

1932年にクローン医師が【terminal ileitis】として発表し、単一疾患として 認められるようになりました。しかしこの病気と思われる症状等を示す患者は 300年程前から書物に記載されています。クローン病は古くて新しい病気なのです。 日本では1970年代になってやっと認識され始めました。

【患者数ってどのくらい?】

日本での患者数は年々多くなり1999年には18,036人となっています。(受給者証交付件数)欧米での年間発病率は1950〜1960年代にかけては10~20/100万人から 20~70/100万人へと急速な増加がみられます。

1980年代以降になりますと発病率の増加は少なくなっており50~70/100万人 くらいと一定になっています。日本での発病率は1977年に0.1/10万人、1990年には0.8/10万人とされています。 年齢は20~30歳代が多く男性患者が女性患者の約2倍います。

【症状は?】

A:腸の病変による症状
腸の粘膜に浅い潰瘍(アフタ)ができることがあります、クローン病の初期に見られる ことが多い病変です。腸の軸方向に縦長の潰瘍(縦走潰瘍)ができます。深くなると 破れる(穿孔)ことがあります。潰瘍が悪くなったり治ったりしながら病気が進みますとその部分がひきつれを起こして 狭く(狭窄)なっていきます。食べ物がそこを通るたびに差し込むような腹痛が起こり、 もっと狭くなると通らなくなり腸の内容物を吐く(嘔吐)ようになります。

このような腸の潰瘍はあちこちに飛び飛びに起こります(スキップ病変)。腸から腸へ、 または腸から皮膚へ、腸から肛門へトンネルができる(痔瘻)のもクローン病の特徴の一つです。 肛門部にできるのを肛門周囲膿瘍ともいいますが痔瘻ともいいます。 お腹の中に膿の固まりを作ることもあります。(腹腔内膿瘍・腹部腫瘤)

1,腹 痛
腸に炎症が起こり、潰瘍ができますので何となく腹部全体が痛みます。 腸に狭窄があると、中のものが通過する時に差し込むような激しい痛みが起こります。 クローン病によくみられる胆石や腎結石・尿管結石でも腹痛がみられます。

2,下 痢
クローン病は大腸ばかりでなく小腸にも潰瘍を作りますので、消化や吸収が悪くなります。 食欲が落ちていない時でも食べ物は不消化になり、吸収しませんので下痢が起こります。 成分栄養剤(エレンタール)など比較的浸透圧の高い栄養剤を急に腸に入れた時も下痢が 起こることがあります。

3,発 熱  
炎症が起こっていますので、病気が悪化している時には熱が出ます。体温が上昇して いる時や寒気を感じる時には腸の状態がよくない時ですので、腸の安静をはかることが 大切です。

4,出 血
クローン病では潰瘍性大腸炎と違い、血便を見ることはありません。しかし潰瘍が 血管のあるところにできたりすると突然大量の出血がみられます。 出血の量が少ない時は黒っぽい便または下痢便ですが、出血量が多いと真っ赤な便や 血液が肛門から出てきます。

5,体重減少
クローン病の初めは、「何となくお腹が痛い」くらいのこともありますので、診断される ことがよく遅れます。慢性腸炎や慢性胃カタルなどの病名で治療されていることもあります。 しかし、腸の具合はすでに悪化しているので食べ物の消化や吸収が悪くなっています。 時々下痢をするぐらいでも栄養状態の悪化がみられ体重減少がみられます。

6,悪心・嘔吐
腸に炎症が起こっているだけでも食欲不振や吐き気が起こりますが、腸に狭窄が 起こりかけている時や起こっている時は吐きます。

7,肛門痛・痔瘻
腸からトンネルができてきて肛門の周りや膣などに穴をあけ、膿や便が出てきます。 椅子に座っていることができなくなるくらい痛くなることが少なくありません。

8,腹部腫瘤
腸の潰瘍が破れたり、膿の塊を作ることがあります。硬いしこりのようなものを 触れることがあります。痔瘻ができていることが多いので外科的に治療する必要 があります。

9,貧 血
クローン病では消化や吸収が障害されますので、栄養状態が悪くなります。 鉄分の吸収も障害され鉄欠乏性貧血がよくみられます。潰瘍部分から出血も ありますので更に貧血は進みます。サラゾピリンを服用しているときには 鉄の吸収が抑制されることもあるといわれております。


B:腸の病変以外の症状
クローン病が悪い時には、腸の潰瘍以外の症状のみられることがあります。 腸管外病変と呼ばれていますが、関節の症状や皮膚の症状、又は眼の症状が 出てきます。

1,関節症状
関節炎、骨関節炎、脊椎炎などがみられます。関節が腫れ、赤くなることがあります。 痛みがありリウマチを間違われますが、リウマチ反応は陰性です。 消炎鎮痛剤により症状の改善をみることがありますが、腸の病気を押さえなければ なかなか治りません。

2,皮膚症状
結節性紅斑、壊死性膿皮症などがみられます。紅いしこりのある発疹や一部に 膿を持つような皮膚炎がみられ痛みがあります。壊死性膿皮症は足にみられることが 多いようです。頑固で治りにくいものですが、腸の病気の治療がこれらの皮膚の病気を 治療するのに役立ちます。 サラゾピリンのアレルギー症状で、はしかのような発疹と発熱及び肝傷害がみられる ことがあります。

3,口内炎症状
通常は5mm以下の浅い潰瘍(アフタ)が口の中にみられます。 口内炎と同じ症状ですが、腸の病気が悪くなっている時によくみられます。

4,眼症状
ぶどう膜炎、角膜病変、眼瞼炎などが起こります。ぶどう膜炎では、かすみ目・ 眼痛・まぶし目・頭痛がみられ失明することもありますので眼科受信が必要です。 腸の病気の状態を反映していることが多いようです。 副腎皮質ホルモン投与によって白内が起こりますし、中心静脈栄養(TPN・IVH)時 にはまれに角膜に病変を合併することがあります。

5,胆・肝病変
胆管周辺炎や脂肪肝がみられます。輸血や手術をしたことのある場合には 肝炎を起こすことがあります。クローン病ではまれですが、硬化性胆管炎の 合併をみることがあります。
【治療法は?】

■内科的治療
現在、クローン病の治療の中心は薬や栄養剤治療で手術は必要な場合のみ 行われる治療として位置付けられています。原因不明であるクローン病では、 大切な消化吸収の働きをもった小腸や大腸が主に侵され、その腸管の内腔が 狭くなり、また腸管と近くの臓器や皮膚などと痔孔という道ができ、腹痛、発熱や 栄養傷害をきたすためにやむを得ず腸の切除ということになります。

手術後当初は体調が良好に経過しますが、そのうちに再び同様のことが起こります。 繰り返す手術によって腸が短くなり、点滴でしか栄養の補給ができなくなって いきます。そして、将来有効な治療が見つかった時にはすでに腸が短すぎて 食事が摂れないという可能性があります。

したがって、クローン病では手術が治療の第一選択とはならないのです。

A:クローン病と診断された時・症状の悪化がみられた時の治療
1,原則として入院のうえ、経口摂取をやめる。
2,栄養療法は血管を介して点滴で栄養するか(完全静脈栄養療法)、栄養チューブを鼻から胃または十二指腸に入れたのちに成分栄養剤で栄養(経腸栄養療法)を行う。
3,炎症所見が軽度の時、薬物療法を行ってもよい。
4,炎症所見が消え、栄養状態が回復するまで続ける。(緩和状態)

B:症状および炎症所見が落ち着いている時の治療と 外科手術後の再発防止を目的の治療
1,外来で行う。
2,経口摂取で症状が再発する場合には、在宅で夜間に栄養チューブを自分で胃まで入れて成分栄養剤を1日に理想体重1kgあたり30kcalを入れて継続する。(在宅経腸栄養療法)
3,在宅経腸栄養療法でも栄養管理が困難な場合に在宅で完全静脈栄養を行う (在宅完全静脈栄養)
4,経口摂取している場合は5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ)を開始する。

C:症状の悪化や炎症所見がみられた際の治療
1,経口摂取している場合は中止するか摂取量を減らし、成分栄養剤の量を増やす。
2,無効な時は完全静脈栄養を行う。
3,5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ)を開始するか、増量する。
4,症状の激しい時には副腎皮質ホルモンを開始し、効果をみながら減量・離脱する。
5,副腎皮質ホルモンの離脱が困難な場合には免疫抑制剤(アザチオプリン、6-MP) を併用する。
6,5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ)や副腎皮質ホルモンで改善をみない時は 抗原虫薬(メトロニダゾール)を用いてもよい。
7,上記のいずれでも効果がみられない時や、全身状態が不良な場合には入院の上 栄養療法をはじめとする治療を行う。

D:肛門やその周辺の治療
成分栄養治療、完全静脈栄養や薬物療法を行っていても、肛門及び周辺に膿がたまる などんお症状が消失しない場合には、抗生物質を用いながら肛門科の専門医に外科的 治療を依
頼する。


■外科的治療
現在、どのような治療方法でも残念ながらクローン病を治すことはできません。そこで治療をする側としては色々な治療方法を組み合わせて患者の全身状態と腸の 状態をできるだけ長く、よい状態を保つように努力している訳です。

クローン病に対する治療方法を大きく分けると栄養療法、薬物療法、外科療法に なります。外科療法の根本は手術によってクローン病を治すのではなく、他の 治療では治りにくい病変の箇所を切除したり、外科的に拡げたり、バイパスを 置いて一定期間病気の部分を休ませて治ってからまた元の状態に戻すとか、 化膿している部分を切開排膿することが主なことです。

すなわちクローン病が進行して起こる治りにくい部分のみを外科的に工夫して 通常に近い生活ができるように治療する部門と考えて下さい。外科に対する偏見、すなわち手術をすると腸が短くなって食べられなくなるとか、 手術をすると再発しやすくなるとか心配されたり、そのようなことはないので 心配しないで下さい。

外科治療も最近進歩して、腸を切除しないで腸を拡げる手術や、内視鏡を用いて 狭くなっている箇所を拡げる方法も開発されております。 将来クローン病を完全に治す治療が見つかるまで、現在の治療法でがんばるしか ないと思われます。

それでは手術が必要な場合どのような手術をするのか、また再発率はどの程度なのか 等を個々に説明しています。

・手術が必要な場合
クローン病が進行して腸潰瘍が深く、また周辺に拡がると潰瘍周囲には反応性に コラーゲン組織が増えてきます。そして腸壁が厚くなり腸の内腔は狭くなってきて 食物通過しにくくなり(狭窄)、最終的には内腔はなくなり食物は全く通過しなく なることがあります(閉塞)が、いったんこのような状態になるとどのような治療法 をしてもなかなか改善しません。

狭窄・閉塞共に小腸のことが多く、狭い所を食物が 通過するとき痛みが起こるだけでなく、腸での消化吸収が障害され手術が必要になります。

以前はこの部分の切除が行われていましたが、最近は切除せず小腸では狭窄部分を 拡げる狭窄形成術が行われています。これはごく狭い範囲の狭窄に対して行われ、 比較的広い範囲の狭窄には切除が一般的だと思います。潰瘍から出血していたり潰瘍周囲に瘻孔や膿瘍があると、この手術では改善しないので行われません。大腸の狭窄では内視鏡による狭窄拡張術が可能です。

狭窄が改善されると痛みは消失し、消化吸収機能もよくなります。強い狭窄を我慢 したり、成分栄養法だけを続行するのはあまり賛成しかねます。クローン病腸手術の 約60%はこれらの狭窄や閉塞に対して行われます。

その次に多いのは瘻孔、膿瘍に 対する手術です。
腸潰瘍が進行して深くなり、腸壁を徐々に貫くと結果的に腸に穴があき、近くの 臓器の壁を貫くように進展します。このように内臓器と内臓器が交通したものを 内瘻孔、腹壁を介して腹部の皮膚に交通したものを外瘻孔とよんでいます。

内瘻では小腸~小腸、小腸~大腸、小腸~膀胱などさまざまなものがあります。 また潰瘍が腸壁を貫いたとき、接する所に臓器がないと腸間膜や腹部に膿が溜ま ってきます(膿瘍)。これは胃潰瘍や十二指腸潰瘍で穴があいたのと同じで治りにくいものです。 瘻孔や膿瘍を作るような腸潰瘍の周囲には、通常数十cm活動性の縦走潰瘍や 狭窄が併存しております。このような病変をどのように治療するかはまず、 絶食として中心静脈栄養か成分栄養法を行います。腸を休めることにより 熱は下がり、痛み・下痢は軽快し、体重は増加していきます。

 
瘻孔や膿瘍がごく初期で小さいものではこれで治ってしまうかもしれませんが、 多くの場合は食事を開始すると短期間のうちに再発するか、治るのに長期間か かります。薬物では免疫抑制剤が有効であるという報告もありますが、これだけで 瘻孔や膿瘍が完全に消失することは難しいと思います。
瘻孔や膿瘍の手術はクローン病の腸の手術全体の約20%くらいです。

その他の原因による腸の手術は少ないのですが、それぞれ重要です。腸潰瘍からの 出血や潰瘍が急速に進行して、腸壁に穴があき、腸内容が腹膜腔に漏れだして 腹膜炎になることがあります。潰瘍によって腸に穴があく穿孔もクローン病の手術の約3%くらいですが、これは 原因不明の腹膜炎として手術されることが多く、手術して初めて判断がつき、 その部分を切除します。

その他には栄養・薬物治療をしても治り難い活動性病変を切除することもあり、 また腸病変のため発育障害になっているときは手術をしないと発育の機会を逃し、 身長・体重・二次性徴の発達が遅れます。クローン病の経過中にまれに腸癌を合併することがあり、手術になることもあります。

クローン病では肛門に痔瘻や肛門周囲膿瘍を合併することが多く、腸とは別に 外科治療が必要となります。痔瘻は治りにくく、適切な治療をしないと肛門狭窄や 複雑な痔瘻になります。

クローン病の腸病変に対する手術率は厚生省特定疾患研究班の内科の集計を 見ると発症後5年で約30%、10年で約70%くらいで、欧米に比べて低い値です。 病型で見ると、小腸型・小腸大腸型の手術率が高く、大腸型は比較的低いようです。

※※※薬の種類等は症状などによって違います※※※

【食事は?】
・・・・・工事中・・・・・

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